「敏感すぎる」と他者との距離

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「敏感すぎる気質」が話題

はてなブックマーク」を見ていたら、「敏感すぎる気質」が話題になっていた。「ハイリー・センシティブ・パーソン(HSP)」という用語があり、感受性が強く、日常の刺激に過剰に反応してしまう気質のことをいうらしい。初めて知った用語だが、興味深かった。記事で取り上げられた元のツイートは以下のもので、リツイート2万6千、いいね3万5千もの数を集めている。

 

学生時代に書いたことと、現在

「敏感すぎる人」が多すぎないか?

上の記事で興味深く感じたのは、敏感すぎることについて学生時代に以下のようなブログ記事を書いたことがあるからである。

blog.goo.ne.jp

そのとき書いたことを簡単にまとめれば、最初は歩みが遅くても、気になる部分は納得のいくまで突き詰めることを諦めずに続けていけば、応用力も高まり、最終的に大きな成果を出せるということである。今振り返ってみても、基本的な考えは変わっていないように感じる。仕事をするようになって、途中段階を説明・共有し、意見を得ながらさらに完成度を高める、という進め方を意識することが加わったようにと思う。

タイトルで使われている「鈍感力」というのは、当時流行していた言葉で、敏感すぎることと裏返しといえる。ここでふと振り返ってみると、「敏感すぎる」の「すぎる」というのは、他者より人一倍強い、という自己認識が含まれているが、私の学生時代でも「鈍感力」という言葉が流行し、上のHSPについても2万、3万も拡散して共感を得ていることからすると、敏感なのは大勢の人に共通していることのようにみえる。そうすると、「人一倍強い」という自己認識の部分に関心が生まれてきた。

 

他者との距離が変わって

私自身、思春期以降、情緒不安定なところがあるな、と感じて過ごしてきたが、現在は随分と安定したと実感している。年齢を重ねると自律神経が安定していくというのがあるらしいが、個人的にはパートナシップ関係をよりよくできるようになってきた、というのが大きいように思っている。関係が深くなる前は人前でも臆せず話せて、積極的・社交的で、安定しているように見えていた相手でも、日常を共にしていると、気分の上下だったり、一人になりたいという時期が訪れたり、自分が嫌と思っていることは同じように嫌だと感じていることがわかったり、といった発見が多くある。様々なことで揺らぎがあるのは、皆同じことで、当たり前のことという感覚が強くなった。

このような体験からすると、普通は何かという認識のずれが悩みの一因になっているように思える。現代社会では、教育なり通念なりで「こうあるべき」といわれてきたことを内面化し、それが普通であり、そこから逸脱しているか否かという点に目が向きやすくなる。他者に抱く印象でも自己分析でも普通が基準になる。若者同士の関係は利害なく打ち解けてるようにもみえるが、自意識が強く弱みも見せたがらず、内面の究極的な部分は見せ合わないことも多い。下の記事のようによく言われる「SNS疲れ」でも、友人の楽しい一面をみて、劣等感を抱いてしまう。 

waramarogu.hatenablog.com

そうすると、大事なことは、辛いと思う状況や感情の揺らぎを規範で抑え込まずに当然生じるものとして認めること、 その点を共有できるパートナシップ関係を持つことになるだろうか。頭でわかるだけにとどまらず、揺らぎがある状態でもそのまま肯定される体験というのは、大きな喜びであり、その価値は大きい。自分の中の「普通」がより現実に近く書き変わっていくことで、やや離れた距離にある他者との関係で感じるストレスも緩和されてくるように思う。

 

つばさタイガー」 

猫物語 (白) (講談社BOX)

猫物語 (白) (講談社BOX)

 

規範の内面化といったことはフーコーで言われていたようにも記憶しているが、そういう方向に行くより、最後に好きな作品を紹介することにしたい。「猫物語(白)」は「つばさタイガー」という副題がついていて、物語シリーズの中で一番好きな話だ。名実ともに「優等生」の主人公が抱える闇を丁寧に描き出す。辛い境遇の中で主人公に巻き起こる負の感情は、自分でも意識されないうちに捨てられていき、好き嫌いの感情自体なくなっていく。その捨てられた感情は積もり積もって怪異となる。主人公はそのことを自覚し、認め、受け入れることで人間を取り戻していく。物語シリーズでは、型にはまったキャラクターが抱える闇の部分を描く作品が多い。特に「囮物語」と「恋物語」は、いわゆる「かわいこちゃん」と「ヒール役」が抱える闇の部分が描かれていて、これらも好きな作品である。

 

 

八王子の彼女(3)

(あらすじ)八王子の大学に通う雄太は、高校時代からの友人の貴仁に誘われ、市内の大学等が集まり地域振興等を行う学生団体に入った。先輩メンバーの麻里奈に憧れを感じている。/(バックナンバー)八王子の彼女(1) 八王子の彼女(2)

「ユーロードに立つ」

ニコニコ生放送「『ある文系大学生のひとりごと』・・・もうすぐコミュニティ1年になります!『ある文系浪人生のひとりごと』から無事進化しました。毎週土曜日の夜、学んだことや、気になるニュースなどをまったり語ります。」視聴者数2ケタ、コミュニティ登録者10人未満、それも大部分は登録返し。「不祥事起こしたわけでもないのに、気分で辞めさせられるって怖いですね。機嫌がいいか探りを入れてからじゃないと話しかけられないって、めっちゃストレスに思います。」・・・「これまで気後れしてたんだけど、ついにリアル始動というか、サークルに入ったんですよ。サークルというか、いきなり本格的な学生団体でさ、不安なんだけど。明日はイベントがあるので早起きしまーす。」

雄太は、高校時代からひっそりとインターネットで個人ラジオ番組のようなものを配信していた。顔出しはしたことがない。他の配信者の番組にコメントを書き込みもするが、匿名のままにしている。実生活で積極的になれず溜まるフラストレーションの解消、話す練習、一週間の振り返り、そんな理由で雄太の生活の一部になっていた。最初は好きなFMラジオ番組の真似事だったが、最近はコーナーごとジングルなど用意したりするなど、慣れてきた。貴仁をはじめ、知人にはこんな活動をしていることは、もちろん話していない。インターネットでは実生活の一部や延長として使う人と、実生活と切り離した人格を発露するために使う人がいるが、雄太は後者だった。個人の映像配信はツイキャスやユーチューブも盛り上がってるが、どちらかといえば前者の世界のような気がして、今のところ移る気はない。

「おつー。イベント楽しいといいね!Rose 」

放送が終わりに差し掛かったとき、コメントが書き込まれた。半年以上前から聴いてくれているようである。どこの誰かもわからないが、Roseというネームから女の子なんじゃないか、と雄太は考えていた。物好きだなと思いつつも、聴いてくれるのは嬉しいし、最近はコメントがないと寂しいと感じる。

「Roseさん、いつもありがとうです。ではまた来週ー。」

 

  

 

翌朝、天気は心配されたが無事雨にはならず、学生天国は通常開催の運びとなった。八王子駅北口、東急スクエアの正面出口が待ち受ける交差点から北西にまっすぐ伸びるユーロード。週末は自動車は通行せず、通りの真ん中にテントが立ち並び、様々なイベントが開催されている。雄太は、テントや段幕の設営などの準備を終えると、はっぴを着て交差点付近でチラシを持って、通りかかった人に声をかけて、展示やステージを見てもらおうと呼び込みをした。一度きりで話す内容も決まっている関係では意外と普通に話せて、こなすことができた。雄太が特に苦手なのは、大人や異性から評価の視線を送られるときで、誰でも好きなシチュエーションではないだろうが、話して対処するよりも、萎縮してできる限り回避しようとしてしまう。黙ってやりすごして被る不利益にも耐性ができてしまっていた。

「よう、お疲れー。 昼飯がてら、見て回らないか?」

貴仁が声をかけてきた。最初は人もまばらだったユーロードも、お昼が近くなってずいぶんと賑わっていた。展示スペースには、鉄道のジオラマ、ソーラーカーなどが目を引いた。3つあるステージでは、プロレス、アカペラ、スカの演奏など様々展開されていた。2人はちょうど真ん中にあるラーメン屋「びんびん亭」に入る。創業してもうすぐ30年になるという、伝統のあるお店だ。つけ麺がメインのようだが、八王子ラーメンもあるようで、雄太はせっかくだからとラーメンを注文した。学生なので無料で大盛りにしてもらった。八王子ラーメンは出し物の景品としても使われていた。醤油味のスープに、刻み玉ねぎを使うのが特徴だ。

「どうよ?なかなか楽しそうにしてんじゃん。」

「そうだねー。誘ってくれてありがとう。」

「そんなのいいって。何かやりたいことできた?」

「うん、例えばさ、ユーロードの入口と、一番大きなステージのところにでも大型スクリーン置いてさ、BGM流して、出し物の実況したり、大学の紹介の映像を流したりできたら、通りがかりの人も興味持ちやすいし、イベントの一体感も高まるかなー、とか。」

雄太は街頭に出てふと思ったことを口にすると、貴仁は驚いたような顔をした。

「雄太、いいね、それ。すごい、ちゃんと考えてるんだ。今度、麻里奈様に話してみよう。たぶん来年の委員長になるだろうからさ。」

雄太は、自分のアイデアを褒められたらことよりも、貴仁が麻里奈のことを様付けで呼んだことに驚いた。麻里奈はAKBのマリコ様とは雰囲気は違うし、時代も変わっている。

「えっ、麻里奈『様』って? だって彼女、完璧だろ?委員会の活動も中心的にやってくれるし。神々しくて、マリア様みたいな、そんなイメージでメンバー間でそう呼んでるんだよ。もちろん本人の前では言わないけどさ。」

女神のように思ってたのは皆も一緒だったとわかって、雄太は安心した。貴仁の話に全力で同意をして、ラーメンを食べ進める。隠れてやっている個人ネットラジオ配信の真似事も、意外なところで実生活で役立つこともありそうだとわかり、それも嬉しく感じていた。

 

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今回出て来たスポットの紹介

ユーロード(西放射線道路)

84 西放射線ユーロード|八王子市公式ホームページ

hachi-navi.com

八王子駅北口から北西側にまっすぐ伸びている商店街のある道路。週末には道の真ん中にテントが立ち並び、色んなイベントが開催されている。途中に小さな公園もあり、雰囲気がいい。前回から取り上げている「学生天国」の様子は、上のリンクをみるとわかりやすいと思う。

ユーロードは通りに面しているお店はもちろん、一本奥に入ってみると、年季の入った面白い、八王子ならではの看板の商店が多いな、と感じた。今後本編でも取り上げるかもしれないが、看板ウォッチャーみたいなテーマで歩いてみても楽しそうだ。

 

「びんびん亭」ユーロード店

8dabe.com

八王子ラーメンは、刻み玉ねぎが入っているのが特徴のご当地ラーメンである。まだ全然行ききれていないが、まずはユーロードにあるお店を出してみた。八王子ラーメンを追求する地域サークル・ホームページもある。

八王子ラーメン | 八麺会お薦めラーメンサイト

 

個人による音声・動画配信の時代

今回の話では前半部分でニコニコ生放送など個人の動画配信について取り上げてみた。私の学生時代もニコニコ動画がそれなりに盛り上がってはいたが、個人で放送するといったことをする人は周囲にも全くおらず、私も生放送・ツイキャスUstreamyoutube動画投稿のいずれも一度もやったことはない。ただ、自分が10代後半の頃に今のような状況だったら、絶対やっているな、と思う。インターネットは当初マスクをしてまで顔出しはできる限り避け、日常生活から切り離された場という文化であったが、今では日常生活の一部という位置づけが強くなっている。個人的には、昔ながらの方が好きではあるが、時代の流れには逆らえない。ただ、現実に踏み込まないかたちで交流を持ちたいと思う場面は必ずあると思うので、形を変えて存続していくだろう。

 

次回は違うテーマの記事を投稿するつもり

3回にわたって同じテーマの投稿を続けている。気楽な小話であるからか、電車の中などですいすい書けて、他のテーマの記事より先に出来上がってしまう。といっても、あまりに続くのもどうかと思うので、次回はそろそろ違うテーマの記事を投稿したい。

 

 

 

八王子の彼女(2)

※前回のお話はこちら → 八王子の彼女(1)

「学園都市八王子」

 

JR八王子駅北口に高くそびえる東急スクエア。11階には「学園都市センター」がある。市内の大学の学生で組織し地域振興イベント等を行う「学生委員会」、市民講座を集めた「いちょう塾」の窓口があり、情報・イベントスペースなどが集まっている。同じ階にあるスカイラウンジクレアは、交流スペースとして飲食の注文をしなくても利用できる。雄太達は、富士山も望める東京西部の広々とした景色を背にテーブルを囲む。

「では、改めまして。野村麻里奈、といいます。学生委員会に興味を持ってくれて嬉しいわ。人手不足で大変なの。」 

ビールの女神は簡単に自己紹介をした。出身は長野県で、八王子市南大沢にある首都大の都市政策学系の二年生。雄太は彼女を年上と思っていたが、一浪して八王子市東中野にある中央大学法学部に入った雄太と同い年であった。雄太は、大学で一年過ごすとこんなに大人っぽくなるのかな、と感じていた。

貴仁は雄太の高校時代のクラスメイトで、学部こそ違うが雄太と同じ大学に現役で入学し、同じキャンパスに通っていた。貴仁は八王子で生まれ育ち、地元愛が強く、地域振興を担う学生委員会に昨年から参加していた。雄太は隣の多摩市出身で、八王子市の取組みにはそこまで関心がなかった。それがなぜ参加しようとしているのか。目の前の女神様のことがないと言えば嘘になる。だが、きっかけはともかく、学園都市センターの資料スペースで読んだ地域資料は、地域の伝説や昔話など事細かな調査をした結果がまとめられており、非常に魅力的であった。

「早速だけど、私達5月の半ばに学生天国ってイベントをやるの。色々やることあるんだけど、例えば、どういうこと興味ある?」

麻里奈が尋ねる。当然の質問だが、上のような邪な動機のあった雄太は、答えに窮してしまった。少し戸惑った表情をすると、隣にいた貴仁が口を挟む。

「そうそう、こいつ浪人して、今まで勉強ばっかで話すのあまり得意じゃないんだ。サークル入る様子もないし、タメの俺が言うのも何なんだけど、社会勉強?にいいかなと思って誘ったわけ。真面目でいいやつだから、まぁ慣れるまで色々見てみる感じがいいんじゃない?」

じゃあ、ということで、雄太は会場整理のボランティアに入って全体の様子を見てもらおう、ということになった。雄太は、同年代の異性の前で、浪人した、話すの苦手、などプライドの傷つく言葉が貴仁から出てきて、先日のスパゲッティ屋で「ヘタレ!」と写真が張り出されたような、内心冷や汗をかく思いをした。だが、目の前にいた麻里奈がさらっと受け入れた様子を見て、小さいことに怖がってたんだなと反省した。馬鹿にされたくない、そんな思いから行動自体を控えがちだが、弱みを出してみると意外と大したことはない。その先にあるものを得られないのは勿体ない。そう感じて、雄太は友人に感謝するのだった。

「あ、そうそう、忘れてた。名刺あるんだよね。どうぞ。」

麻里奈学生委員会の肩書が入った名刺を雄太に差し出した。流石にLINEのアカウントは書いていなかったが、メールアドレスも、携帯電話番号も書いてあった。雄太はそれだけで胸の鼓動が高鳴ったが、次の瞬間、雄太の名刺を受け取る指と麻里奈の指が少しだけ触れた。麻里奈は何事もなく、次の用事があると席を立っていったが、雄太はその後しばらく、指の感触を確かめるのだった。

  

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今回登場したスポットの紹介

八王子東急スクエア

www.tokyu-square.com

八王子駅北口のショッピングセンター。ひと通りのお店が揃っている。JR八王子駅ペデストリアンデッキとは直結しておらず、階段を下りて、裏に回らないと入れない。地下でつながっているようなので、地下から行くのが便利だ。建物の真ん中は下から上まで吹き抜けがあり、開放感がある。ゴールデンウィーク中には、こいのぼりがかかっていて綺麗だった。お店の中では、「まくらぼ」というオーダー枕のお店に興味が引かれた。頭の形や高さを計測した上で、パイプ素材を中心に素材を組み合わせることができるらしい。

 

八王子学園都市センター

www.hachiojibunka.or.jp

八王子東急スクエアの11階にある。上の物語で取り上げたように、関係組織の窓口や情報スペースのほか、ギャラリーでは学生団体や地域団体の作品展示などが行われている。自分が行ってみた際には、情報スペースで、以前記事で取り上げた大栗川流域の地区の地域調査結果の資料が非常に充実していて、小一時間読み込んでしまった。スカイラウンジは眺めがよく、広々としていて過ごしやすい場所だ。 

 

学生天国(合同学園祭)5月14日開催!

今年の5月14日(日)は学生委員会が関わるイベント、「学生天国」が八王子駅前周辺で開催されるとのことである。始まって今年が第12回で、 特に今年は市政100周年記念ということである。市内の大学の団体が出し物をしたりもするようだ。興味が出てきたら、ぜひとも訪れてみてほしい。今回の記事は、これに間に合わせるため、少し早めに更新した。これからは、更新ペースは遅くなるが、ご容赦いただきたい。

 

上の物語はフィクションです!

学生委員会というのは実在の団体で、上のように年間を通して活動している。他方、前回の記事(八王子の彼女(1))で書いたように、上の不定期連載の物語は、大学生でもなく、もともと八王子と特に縁もない私が作ったフィクションである。個人的に八王子を探訪する目的もあるので、実際のお店などを紹介しているが、もし言及することで問題があったらご指摘をいただきたい。