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大栗川と数多の恋の物語

エッセイ 写真の練習

休日のサイクリングとスナップ写真のお話。昨年夏の仙川(下記参照)に続き、2月に大栗川に行ってきた。記事を書かないうちに季節が変わってしまいそうになってきたので、ここでまとめてみる。

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大栗川とは

大栗川は、多摩川の支流の一つで、八王子市鑓水地区を源流とし、太田川、乞田川(多摩センター地区を流れている川)と合流しつつ、聖蹟桜ヶ丘駅付近で多摩川に流れ込む総延長約15.5キロの一級河川である。上の写真は、多摩川との合流地点にあるゼロメートル標識である。左側が多摩川、右側が大栗川だ。ここは子供が交通ルールを学ぶための公園の敷地内で、バードウォッチング施設もある。

今回はこの場所をスタート地点とし、上流の鑓水地区まで自転車で上ってみた。大栗川沿いには、古くからの伝説があったり、近年の映画の舞台となったりした場所があり、「恋の物語」をテーマに辿ってみることとした。この日は曇りの予報であったが、幸い太陽も出て過ごしやすい気候であった。川沿いには遊歩道が整備され、走りやすい。私が行った2月にはさらに遊歩道の整備工事をしている区間があり、4月頃にはもっといい環境になるだろう。堀之内付近に自転車乗入禁止の区間があるが、並走する車道を走れば問題ない。

 

聖蹟桜ヶ丘―「耳をすませば」「一週間フレンズ。」の舞台

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聖蹟桜ヶ丘といえば、スタジオジブリのアニメ映画「耳をすませば」の舞台となったことで有名だ。最近でも、今年の2月に上映開始の「一週間フレンズ。」との映画でも舞台となっている。記憶が一週間でリセットされてしまう女子生徒と男子生徒の友達から始まる恋物語だ。今回のスタート地点からは、一週間フレンズ。」で度々登場する府中四谷橋を臨むことができる。宮崎あおい玉木宏主演の「ただ、君を愛してる」でも登場した橋だそうだ。日本の高い塔と放射状に伸びるワイヤーが特徴的な橋で、手前に京王線多摩川を渡る姿をみることができる。

スタート地点から少し走ると、多摩センター方面に流れる乞田川との分岐がある。現在調布から分岐している京王相模原線は、地形からすれば、聖蹟桜ヶ丘をターミナルとして、大栗川と乞田川沿いの低地に沿って通すこともできたように思う。帰宅後調べてみると、確かにそのような整備案もあったようである。分岐から少し進むと、大栗川からも聖蹟桜ヶ丘の中心街が見える。「耳をすませば」では「杉の宮駅」という名前であった。下の写真の右奥に京王アートマンの赤い看板がある。 

さらに大栗川の上流に向けて走ると、「旭鮨」と大きく文字が書かれた建物が見え、霞が関橋に辿りつく。この橋の道のすぐ先には、下の写真のように「耳をすませば」で図書館に通じる「いろは坂」のモデルとなった場所がある。他にも写真を撮っている若い人たちに遭遇した。この坂を上って行けば、階段や金比羅神社など他のモデルとなった場所がある。車通り、人通りが多いので注意が必要だ。背後の信号で流れが途切れるのを待って撮影した。

さらに大栗川を上っていくと、下の写真のように、川沿いに「耳丘」と呼ばれる最後のプロポーズのシーンの舞台となった場所がある。山肌がきれいに整備されていて、下から見てもいい眺めである。

少年たちの恋の物語に溢れる大栗川の下流の地域であるが、丘の上の桜が丘住宅地は、近年、坂道が敬遠されて高齢化が進むニュータウンとしてよく取り上げられるようになってしまっている。街並みの綺麗さは言わずもがな、バスは通っているし、長崎のように坂道の多い街の知恵もあるように思う。他にも、暮らしというより、都心に本宅を置いた上での近場の別荘地として考えるのもよいかもしれない。聖蹟桜ヶ丘駅周辺は変わらず活気があり、これからも多くの物語の舞台となっていってほしい。

 

多摩都市モノレール・大学の街

中流域に進んでいくと、右手の山の上に帝京大学の大きな建物が見えてくる。さらに左手には高いところを多摩都市モノレールが悠々と進んでいく姿に遭遇した。多摩都市モノレールと大栗川が交差する場所には、「大塚・帝京大学駅」が存在し、川沿いでも運動部と思われる学生の集団とすれ違う。さらにもう一駅先には中央大学明星大学が存在し、この付近のアパートに住む学生たちも多いようである。

多摩都市モノレールは平成10年代に入って開業した新しい路線で、橋脚が高所である上、モノレールの構造上、車窓から真下が見えるので非常に眺めがいい。学生の集まるこの地区では、すでに多くの恋の物語が生まれているであろうが、モノレールも登場する新たな有名な話が出てくるのを期待している。

そして、恋人たちのイベントの舞台としていいと思ったのは、さらに上流に進み、京王堀之内駅近くにある太田川と大栗川の分岐点だ。下の写真の左側が太田川、右側が大栗川である。太田川は南大沢駅方面に流れていく。この先の大栗川沿いには桜の木が並び立っており、春には綺麗な花が咲くであろう。

真ん中の公園には、風向計のようなモニュメントが立っており、ここでどんなシーンが展開できるかな、なんて思い巡らすのも楽しいだろう。

 

鑓水と悲恋の話

この先、大栗川は野猿街道(都道20号)沿いに上っていき、ほどなく上流の鑓水地区へと到着した。この地区は、古くから伝説があり、江戸後期~明治初期には生糸の商人が活躍したという歴史のある場所だ。八王子市の資料館も存在している。下のようにこの地区を題材とした書籍もある。「呪われた」と題されているのは、やや悲しい結末に終わった話が多いことによるものだろう。だが、燃え上がる熱情や光があってこそ、そのような話が出てくるのであり、そのドラマの舞台としてとらえる方がよいと思う。

 

嫁入谷戸の伝説

大栗川に架かる「嫁入橋」が鑓水地区の入口だ。非常に特徴的な名前であるが、由来はある伝説に因むものらしい。この先の谷戸に夜な夜な巫女が現れ、男性を魅了する。これは怪異の類と疑った村の者は、巫女が舞を踊る中、弓を射る。すると巫女は消え、翌朝、矢が体に刺さって死んだ白狐が残されていた。この伝説から、「弓射り(ゆみいり)」→「嫁入り」と転じたとのことだ。他にも、生糸の豪商に都心から嫁入りがあったことから来ているとの話も見かけたが、資料館に飾られていた古地図にも嫁入谷戸と書かれていたので、もっと古くからの名前ではないか、前者の信ぴょう性が高いように思う。 

試しに嫁入橋を越えて嫁入谷戸の奥に進んでいってみたが、谷が深く日差しが入りにくくて暗い雰囲気で、ほどなく行き止まりになった。個人的な想像であるが、白狐を稲荷様の化身と考えると、この場所が稲作に適さない理由の説明として語られた伝説なのではなかろうか。他には、怪異が出る・祟られるので近づかないように、と言い習わされるようになったとか、或いは、それを逆手にとって逢瀬の場となったとか、勝手に思いが巡ってきた。ともあれ、行き違いで残念な結末になってしまったが、稲荷様は巫女になり村人と接触を試みたのは確かである。神様が愛しようとした地、そんな伝説の場所と考えられるのではないか。

嫁入橋の近くには、永泉寺という鑓水地区の中心的なお寺がある。入ってみると、かわいらしい小僧の絵が出迎えてくれる。奥には地区の代々の墓所が山に向かって並んでいる。上の書籍によると、都心から嫁入りした女性は、村にうまくなじめないまま短命に終わってしまったとのことである。「もしも」があった場合どんな展開になっていたか、そんな物語も浮かんでは消えていく。

 

絹の道資料館~道了堂跡

絹の道資料館|八王子市公式ホームページ

鑓水地区を回るには、まず絹の道資料館を訪れるのがいい。歴史や地区の全景を把握することができる。入場無料で、休憩所もある。展示されている古地図や昔の写真は、当時の佇まいを知ることができて、後で散策する際に思いを馳せることができる。

ここから更に絹の道を上って、道了堂跡まで足を運んでみる。上の写真ように、舗装されず石の多い道であるので、自転車は置いて行った。横浜から八王子までこの道を通って生糸や織物が運ばれていったそうだ。途中、ハイキングの集団や、マウンテンバイクで駆け下りていく人にも出会った。

さらに石段を上った先にある小高い山の上には、道了堂跡があった。下の写真のように、木製の柵で覆われている。昔は往来が多く、活気のある場所だったそうだ。実はこの場所、有名な心霊スポットとされているようで、その発端として道了堂に住み込みでお勤めをしていた老女が殺人事件の被害に遭ったというのがあるらしい。しかしこの事件の犯人は捕まって決着してるし、上の書籍によれば、被害者の老女には娘さんがいて供養がされ、作者も事件後に道了堂で手を合わせるなどして普通に過ごしている様子が書かれている。 

むしろ上の書籍では宅地開発が始まったばかりで「赤茶の台地が広がっていた」と書かれていた北野台の住宅地を手前に、奥は新宿の高層ビル群、さらにアップすればスカイツリーも見える眺望の良さに着目すべきであろう(下の写真でも拡大すれば都庁とスカイツリーが見える。)。子供を育てながら、堂を切り盛りして眺めていた景色はどのようなものだったか、どのような思いであったか、四季の移り変わりはどのようなものであったか、そんな思いを巡らせてみてはどうだろうか。

鑓水地区に入ると大栗川は三つに分かれる。絹の道資料館の方向では、田畑が広がり、これまでと全く趣の違った川の姿になる。その先にはホタルのビオトープがあるらしく、看板やホタルの模型が立っていた。

 

諏訪神社

大栗川のもう一方の流れは、諏訪神社の方向に上って行く。上の写真の真ん中、道沿いの用水路のような流れが大栗川だ。ここから横に入り、やや急な階段を上って諏訪神社に向かう。

間にあるお堂は、絹の道資料館で昭和時代の祭りの様子が写真で展示されていた。舞台で何かが演じられ、敷地いっぱいに家族連れが集まって、非常な賑わいで活気のある様子であった。当然ではあるが、昭和の時代にもいくつもの恋が生まれ、家族ができ、営まれてきた。私が行った時期では神社も賽銭箱が建物内にしまわれているなど、とてもひっそりとした空気に包まれていた。健脚にいいといわれる子の権現も祭られているそうで、帰りの無事をお祈りした。

 

多摩美術大学・小泉家屋敷

三つに分かれた大栗川の最後は、多摩美術大学の側に流れていく。大学の敷地の北側に沿って流れ、その先は地下に入っていき、辿れなくなる。途中には「小泉家屋敷」という昔の養蚕農家の佇まいがわかる施設がある。

62 小泉家屋敷(鑓水2178)|八王子市公式ホームページ

この付近では、過去にもうひとつ事件があったとされる。立教大学助教授が教え子の女学生と不倫をし、清算に失敗して恩師の別荘で教え子を殺してしまった上、助教授は最終的に一家心中してしまう。事件のことはウィキペディアに載っており、当時も非常に騒がれたようだ。道了堂跡の心霊スポット解説ではこの事件とも結びつけられているものもみられるが、道了堂跡とは1キロ以上離れていて、あまり縁のある場所のようにはみえない。上の書籍でもこの事件の顛末や作者が友達と話したことなどが書かれているが、当時の人たちの熱量の大きさが感じられた。

 

なぜラブストーリーを求めるのか

世の中には未解明である、説明がつかない事象は山ほどあり、将来のことも確実な予測はできない。だが人は説明がつかない状態をそのままに受け入れることは難しい様だ。霊的なものであっても、何らかの説明がつくことでむしろ安心する。どう対処するか心積もりもできるからだろう。数年前、友達に連れられてホラー映画を観に行ったことがあったが、恐怖の原因となるものが何か示唆されるように描かれていた。このように人が恐怖の話を求める心理は自分なりの考えはあるのだが、他方でラブストーリーを求める心理というのは何から来ているのだろうか。これはまだ自分なりの説明がついていない。

大栗川は、悲恋の話が多い上流から、爽やかな青春の恋の話が溢れる場所に流れていく。その間でも、若者が集まる街でいくつもの恋が生まれては消えているだろう。私自身、今回大栗川に着目したのは、過去恋人に会いに大栗川沿いにバスに乗って足繁く通った時期があるからだ。そのときのことも交えながら、なぜラブストーリを求めるのか、自分なりの説明をつけるというテーマで、川を繋ぐ新しい恋の物語を考えてみたい。

そんなことを思いめぐらすうちに、日が暮れてきてしまった。帰り道を急ぐ。次は、石神井川に行ってみようかな、と思っている。

 

余話

たくさんの鳥と遭遇

暖かくなってきた時期だったからか、今回は飽きるほどたくさんの鳥に遭遇した。下流の合流地点ではバードウォッチングの施設があり、大きなカメラを携えて待ち構えている人も多くいた。川沿いには、特にカモの類がたくさんいた。カメラに収めることはできなかったが、シロサギ、シジュウカラハクセキレイムクドリなど様々な鳥を見かけた。

ちょっと変わり種であるが、川沿いにフラミンゴもいた(笑)。営業を終えた昔ながらのレンタルビデオショップがそのまま残っている。右側の広告は2012年の映画のようだ。 

 

食事スポットの紹介

大栗川は近くに野猿街道が並走しており、街道沿いのお店に出れば、食事をすることができる。個人的には京王堀之内駅付近が特にお店が多いように思う。がっつり腹ごしらえをするなら、「ラーメン二郎」があるので行ってみてはどうか。道の向かいにはスターバックスコーヒーがあり、郊外店ならではの綺麗なデザインのお店でよく賑わっている。長めにまったりするのにいいだろう。

今回私が食事をしたのは、大塚・帝京大学駅の直下にある地元のお寿司屋さん「寿司安」である。学生も多い街ということで、リーズナブルな価格で美味しく食べられる。お店の人も気軽に話しかけてきてくれて、雰囲気も明るい。

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注意すべきは、鑓水地区にお店がないことである。絹の道資料館では食事もできる休憩スペースもあるが、お弁当の調達先は考えなければならない。上の書籍では昭和には食堂があったようだが、残っていない。最近までセブンイレブンもあったようだが、閉店してしまっている。 

 

路線バスでの旅もできる?

路線バス|京王バス

最近テレビなどで盛んに企画される「路線バスの旅」であるが、大栗川探訪は自転車だけでなく路線バスでも可能だと思う。個人的に考えるルートとしては、今回とは逆に上流から下っていくルートだ。鑓水地区は午前中に巡ってしまって、南大沢駅周辺や堀之内などで昼食をとるのが効率的だろう。

橋本駅→南63→絹の道入口バス停→絹の道資料館、道了堂跡、諏訪神社、小泉家屋敷、永泉寺を徒歩でめぐる→永泉寺バス停→南63→南大沢駅→アウトレットモールや首都大等(昼食の場所多い)→桜83→(ラーメン二郎太田川との分岐を訪れるならなら由木堀之内バス停下車)→(モノレールとの交差・寿司安を訪れるなら堰場バス停下車)→聖蹟桜ヶ丘駅→桜91→桜が丘地区の「耳をすませば」の舞台を巡る→聖蹟桜ヶ丘駅に戻る(夕食の場所多い)