八王子の彼女(2)

※前回のお話はこちら → 八王子の彼女(1)

「学園都市八王子」

 

JR八王子駅北口に高くそびえる東急スクエア。11階には「学園都市センター」がある。市内の大学の学生で組織し地域振興イベント等を行う「学生委員会」、市民講座を集めた「いちょう塾」の窓口があり、情報・イベントスペースなどが集まっている。同じ階にあるスカイラウンジクレアは、交流スペースとして飲食の注文をしなくても利用できる。雄太達は、富士山も望める東京西部の広々とした景色を背にテーブルを囲む。

「では、改めまして。野村麻里奈、といいます。学生委員会に興味を持ってくれて嬉しいわ。人手不足で大変なの。」 

ビールの女神は簡単に自己紹介をした。出身は長野県で、八王子市南大沢にある首都大の都市政策学系の二年生。雄太は彼女を年上と思っていたが、一浪して八王子市東中野にある中央大学法学部に入った雄太と同い年であった。雄太は、大学で一年過ごすとこんなに大人っぽくなるのかな、と感じていた。

貴仁は雄太の高校時代のクラスメイトで、学部こそ違うが雄太と同じ大学に現役で入学し、同じキャンパスに通っていた。貴仁は八王子で生まれ育ち、地元愛が強く、地域振興を担う学生委員会に昨年から参加していた。雄太は隣の多摩市出身で、八王子市の取組みにはそこまで関心がなかった。それがなぜ参加しようとしているのか。目の前の女神様のことがないと言えば嘘になる。だが、きっかけはともかく、学園都市センターの資料スペースで読んだ地域資料は、地域の伝説や昔話など事細かな調査をした結果がまとめられており、非常に魅力的であった。

「早速だけど、私達5月の半ばに学生天国ってイベントをやるの。色々やることあるんだけど、例えば、どういうこと興味ある?」

麻里奈が尋ねる。当然の質問だが、上のような邪な動機のあった雄太は、答えに窮してしまった。少し戸惑った表情をすると、隣にいた貴仁が口を挟む。

「そうそう、こいつ浪人して、今まで勉強ばっかで話すのあまり得意じゃないんだ。サークル入る様子もないし、タメの俺が言うのも何なんだけど、社会勉強?にいいかなと思って誘ったわけ。真面目でいいやつだから、まぁ慣れるまで色々見てみる感じがいいんじゃない?」

じゃあ、ということで、雄太は会場整理のボランティアに入って全体の様子を見てもらおう、ということになった。雄太は、同年代の異性の前で、浪人した、話すの苦手、などプライドの傷つく言葉が貴仁から出てきて、先日のスパゲッティ屋で「ヘタレ!」と写真が張り出されたような、内心冷や汗をかく思いをした。だが、目の前にいた麻里奈がさらっと受け入れた様子を見て、小さいことに怖がってたんだなと反省した。馬鹿にされたくない、そんな思いから行動自体を控えがちだが、弱みを出してみると意外と大したことはない。その先にあるものを得られないのは勿体ない。そう感じて、雄太は友人に感謝するのだった。

「あ、そうそう、忘れてた。名刺あるんだよね。どうぞ。」

麻里奈学生委員会の肩書が入った名刺を雄太に差し出した。流石にLINEのアカウントは書いていなかったが、メールアドレスも、携帯電話番号も書いてあった。雄太はそれだけで胸の鼓動が高鳴ったが、次の瞬間、雄太の名刺を受け取る指と麻里奈の指が少しだけ触れた。麻里奈は何事もなく、次の用事があると席を立っていったが、雄太はその後しばらく、指の感触を確かめるのだった。

  

(目次)

 

今回登場したスポットの紹介

八王子東急スクエア

www.tokyu-square.com

八王子駅北口のショッピングセンター。ひと通りのお店が揃っている。JR八王子駅ペデストリアンデッキとは直結しておらず、階段を下りて、裏に回らないと入れない。地下でつながっているようなので、地下から行くのが便利だ。建物の真ん中は下から上まで吹き抜けがあり、開放感がある。ゴールデンウィーク中には、こいのぼりがかかっていて綺麗だった。お店の中では、「まくらぼ」というオーダー枕のお店に興味が引かれた。頭の形や高さを計測した上で、パイプ素材を中心に素材を組み合わせることができるらしい。

 

八王子学園都市センター

www.hachiojibunka.or.jp

八王子東急スクエアの11階にある。上の物語で取り上げたように、関係組織の窓口や情報スペースのほか、ギャラリーでは学生団体や地域団体の作品展示などが行われている。自分が行ってみた際には、情報スペースで、以前記事で取り上げた大栗川流域の地区の地域調査結果の資料が非常に充実していて、小一時間読み込んでしまった。スカイラウンジは眺めがよく、広々としていて過ごしやすい場所だ。 

 

学生天国(合同学園祭)5月14日開催!

今年の5月14日(日)は学生委員会が関わるイベント、「学生天国」が八王子駅前周辺で開催されるとのことである。始まって今年が第12回で、 特に今年は市政100周年記念ということである。市内の大学の団体が出し物をしたりもするようだ。興味が出てきたら、ぜひとも訪れてみてほしい。今回の記事は、これに間に合わせるため、少し早めに更新した。これからは、更新ペースは遅くなるが、ご容赦いただきたい。

 

上の物語はフィクションです!

学生委員会というのは実在の団体で、上のように年間を通して活動している。他方、前回の記事(八王子の彼女(1))で書いたように、上の不定期連載の物語は、大学生でもなく、もともと八王子と特に縁もない私が作ったフィクションである。個人的に八王子を探訪する目的もあるので、実際のお店などを紹介しているが、もし言及することで問題があったらご指摘をいただきたい。